
さまざまな分野で活躍する人々への「READY」な状態を紐解くインタビューを通じて、日々の活動のマインドシフトをサポートするメディア“PEOPLE” by NEUTRALWORKS.。
120年間硯を作り続けてきた愛知県新城市の鳳鳴堂硯舗の六代目として生まれ、現在は家業を継ぎながらも、作家としての活動や、静岡大学で現代の造形芸術についての研究、後進の育成にも従事し、幅広く活動している名倉達了さんにインタビュー。目まぐるしく変化する現代において、「硯」の文化を未来に残すために伝統と革新のバランスを模索し、真摯にモノづくりに向き合う名倉さんのココロとカラダとの向き合い方について、お話を伺いました。
Chapter
01
「モノ」を売るのではなく、硯で「コト」を生み出したい
様々な成功例をみても、伝統的なことを継続させるためには、「革新」が大切だと考えています。受け継がれてきたものごとを守り続けるだけではなく、社会状況に応じて発展させていくことが次に繋げるために必要なことだと思っています。
02
日常の中に、余白をつくる
情報をシャットアウトするために趣味の釣りに出かけたりして生活のリズムを立て直します。コーヒーを毎朝飲むこともルーティンの一つなので、全部をバランスよくということを心がけながら実践しています。
03
ニュートラルでいることが、豊かな⼈生に繋がる
名倉さんが仕事をする上で心がけていることや、創作活動をするにあたって普段からインスピレーションを受けるものはありますか?
僕はなるべく、ニュートラルでいようと心がけています。
良いものを良いと言える状態でいたいので、結構毎日感動していますね。例えば1メートルの彫刻を作った時に出た屑で真っ白なグラデーションができた時は綺麗だなと思いますし、草むしりの跡のリズムなどにも感動します。それを美しいと思える心があるということは、心に余裕やスペースがあるのだと思います。
最近、大学の授業で面白い経験をしたのですが、木で四角いボックスを作るという課題があり、技術の問題でどうしても上手く作れないという時に、「綺麗にできないから嫌だ」と言う学生と、綺麗にできないものに対して、「愛着が湧く」と反応する学生の2パターンに分かれました。この頃は後者のような感性を大切にしたいと常々思っています。歪なものに対しても個性を見つけて面白がることができる。そうして暮らしていると日常はインスピレーションを受けるものごとで溢れています。
形を追い求める中で、“まだ手を動かすべきか、止めるべきか”というタイミングは、どのように判断されていますか?
僕は基本的に、止めずに作り続けます。
だから僕は数を沢山作るのですが、失敗している作品もすごく多いです。行き過ぎだなと思ったら次のものに取りかかりますし、そう思っても、数年経つとまた使えるなというものが出てくることもあります。大体のことは万事挑戦すれば良いと思ってます。

04
これまでの硯の在り方を残しながら、変化させていく
硯を自分との対話の時間の為の道具と考えるといいのではないかと思います。茶道であればお茶碗を愛でるために飾る人もいるし、味や香りが好きな人もいる。硯も同様に、いろんな楽しみ方があると思いますし、自分と向き合うものの一つとしてしっくりきますね。
05
名倉さんにとって「READY」な状態とは、どのような状態ですか?
全部をバランス良く行うこと。
毎日のルーティンを実行しながら生活できているとき。

06
名倉さんの「READY」を作るためのアクション

01. 早起きをしてコーヒーを飲む
子供が生まれたばかりということもあり、毎日、早寝早起きになりました。
早起きをしてコーヒーを飲むことは毎日のルーティンとして行っていて、すごく調子が良いです。

02. 家中の草むしりをしてから浜辺へ犬の散歩に行き、朝日を見る
制作をはじめる前に、早起きをして家中の草むしりをすることもルーティンとなっています。
それから、愛犬と一緒に浜辺へ散歩に行き、朝日を見てから帰って丸一日制作をします。

03. 夜一人で散歩して、肉眼で見えない風景をiPhoneで撮ること
昔から夜一人で散歩することが好きです。引っ越してからは、海岸を歩いています。
夜、肉眼で見えない風景をiPhoneで撮ることにハマっています。見えないところを歩いてるという感覚が好きなのかもしれないですね。

04. インプットを止め、情報を遮断する
都会から離れて暮らしたこと自体、情報を遮断するという目的の一つでもありました。アート作品やエンターテイメントで今流行っているものを沢山見ることと全く見ないことを、すごく意識して分けています。本気で作るときは先に沢山インプットしておいて、1週間2週間は完全にシャットアウトする、という期間を作っています。
そのために、生活をきちんとする、ということを心がけていますね。
名倉達了 Tatsunori Nagura
アーティスト、1984年生まれ。
愛知県新城市の鳳鳴堂硯舗六代目として生まれ、2011年に東京藝術大学大学院美術研究科彫刻専攻を修了。主に石を素材としたミニマルな彫刻や硯を制作。個展やグループ展での発表に加え、コンペティションでの受賞なども多数。現在は静岡大学教育学部の講師として造形教育にも従事。硯と彫刻、異なる領域を横断した独自の造形表現の探究に加え、現代における硯の在り方やその芸術的価値づけについても研究している。2018年から19年にかけて文化庁の助成を受けて英国に滞在。現地の鉱山をリサーチし、採集した石材で制作した硯や彫刻を発表するなど、国外での文化交流も行う。今後は静岡市内のアトリエスペースを開放した活動を予定している。
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鳳鳴堂硯舗 Homeido Kenpo
硯専門店。明治20年代創業。愛知県新城市、鳳来寺山の麓に位置する。
約130年前から鳳来寺表参道に工房と店舗を構え、初代より鳳来寺山麓から産出する石材を使用して鳳来寺硯を作硯。四代目からは日本国内と中国産出の石材を中心とした東アジアの硯を研究を行い、当代の五代目はこれまでの研究を引き継ぎながらも独自の造形探求に力を注ぎ、現代日本の硯が芸術作品としての地位を獲得することに尽力している。鳳鳴堂硯舗では、鳳来寺山の石材に加え、日本各地と中国の歙州石や端渓石など、多様な石材で作られた独創的な現代の硯とベーシックな硯、またそれらの石材も常時展示している。
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編集後記
今回は東京から車を走らせ、名倉さんが制作に励む静岡県の作業場兼ご自宅へインタビューに伺いました。
120年という歴史ある鳳鳴堂硯舗に生まれ、6代目として先代の想いを受け継ぎながら、硯という枠を超え、アートの道へ進まれた名倉さんのモノづくりとの向き合い方、そこにかける想い、制作や生活の中で大切にされていることを、様々な角度からお伺いすることができました。知っているようで知らない硯のこと、伝統的な技術を継承しつつもどのように変化させ、進化させているのか。実際に作業場を訪れ、硯の作品に触れ、名倉さんの言葉で伝えていただくことで、硯や何かを通して自分自身と向き合うということの大切さ、視野を広く持ち、問題に目を向けながら柔軟に物事を捉えていくことの大切さを学ばせていただきました。アーティストとしてのモノづくりやココロとカラダのバランスとの向き合い方はもちろん、写真から滲み出る名倉さんの温かいお人柄も、記事の中で感じていただけたら幸いです。
Photographer: Tetsuo Kashiwada
Interviewer: Shota Fujii
Writer: Yukari Fuji