
さまざまな分野で活躍する人々への「READY」な状態を紐解くインタビューを通じて、日々の活動のマインドシフトをサポートするメディア“PEOPLE” by NEUTRALWORKS.。五輪金メダルを獲得するなどスピードスケート選手として第一線で活躍を続け、現在は相澤病院での勤務や母校信州大学での特任教授、各地での講演などを行う小平奈緒さんにインタビュー。アスリート時代から「READY」を繰り返してきた小平さんが、今抱いている思いとは。人との繋がりを大切にしながら真っ直ぐに生きる小平さんのココロとカラダとの向き合い方について、お話を伺いました。
Chapter
01
日々のルーティンが心の時間軸を保つ
普段は大体5時半に起きて、コーヒーを飲みながら一日のスケジュールをチェックし、20分ほどお風呂に入って汗をかきます。その後、室内でエアロバイクを30分漕いで、シャワーを浴びて身なりを整えてから会社に行くのが毎日のルーティンです。自分の中のリズムを保つために一日30分は体を動かすようにしています。時間があれば朝のうちに散歩をしたり、縁側で日向ぼっこをしたりして、太陽の光を浴びるようにしています。
選手時代にオランダへ留学した際、練習後に必ずチームメイトとカフェでカプチーノを飲みながら会話する時間があったことがきっかけで、コーヒーが好きになりました。その頃に、家族や友人と心豊かな時間を過ごすことや、心地よい場所や空間をオランダ語で「Gezellig(ヘゼリヒ)」と表現することをチームメイトに教わりました。それは、神経質だった私の心の時間軸をとり戻す習慣の一つになり、今でも大切にしています。
02
心身を整える時間は、体に根を張る時間

03
地域の一員として、繋がりを大切に生きていきたい
ご自身や人との対話を通じて培った価値観や思考を大切にされている小平さんにとって、豊かさとはどのような状態を指しますか?
「刻々と変わりゆく今に、些細な幸せを見つけられる心の状態」です。祖母が亡くなる前によく言っていた「おお、生きているな」という言葉を、今でもすごく大切にしています。人は老いてくるとできなくなることや、恥ずかしくて他人に見せたくないことが増えると思うんですが、祖母はそんなことさえも「おお、生きているな」と言って笑い飛ばしていたんです。その大らかな言葉や表情こそが、豊かさだと思います。
そこで、今私が「生きているな」と思える瞬間を書き出してみました。それは、朝日が気持ちよく感じる時、冷たい空気にスケートの匂いを感じる時、コーヒーのひと口目が美味しかった時、一人ではないことに気づいた時、誰かの親切に助けられた時、人の心の揺れ動きを感じた時、本の中から素敵な言葉を見つけた時、よく眠れた時…。こんなふうに自然の中で風や鳥の声、森の香りなどを感じた時、ふと言葉が舞い降りてくる時があります。自分の言葉で表現できると、心が穏やかになれる感覚がありますね。
これまで、私は自然豊かな暮らしの中で景色を愉しんできました。経験も景色と同じだと思えば、雨が降っている時でも、視点を変えれば愉しむことができると思うんです。嬉しい出来事ばかりが豊かさなのではなく、苦しい時や痛みを感じる時にも、「生きている」と感じられることこそが豊かさなのではないかと思います。
人との繋がりを大切にされている印象がありますが、何かきっかけがあったのでしょうか?
昔は人見知りで、人と喋るのがあまり得意ではありませんでした。中学生の頃、初めてスピードスケートの全国大会に出場することが決まった時、父が「とにかく沢山友達を作ってこいよ」と送り出してくれたことがあります。この言葉がきっかけで、人に話しかける勇気を持てるようになったんです。実際に人と話すことで、自分と同じような境遇を持つ人が沢山いることが分かり、みんな頑張っているんだという意識が励みになることが多かったですね。
それ以降、人との繋がりを大切に生きていきたいという思いが芽生え、引退後はテレビの中の存在ではなく、地域の中の一人でいたいと強く想うようになりました。今では様々な人と出逢い、交流する瞬間が大きな喜びであり、すごく大切にしている時間です。相澤病院で様々な想いを抱えている人に出逢う中で、私にできることを考えた時、「そこにいること」が答えだと思いました。静かに寄り添うことが、 何よりもその人をその人らしくさせてあげられる方法なのではないかと。その人の暮らしの中で、私自身がそよ風のような存在でいられたら、もうそれで私の願いは叶っているのかなと思います。

04
今という瞬間に心を向け、愉しむこと
05
小平さんにとってREADYな状態とは、どのような状態ですか?
今という時間を感じ、自然の音に耳を傾けられている時。

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06
小平さんの「READY」を作るためのアクション

01. コーヒーを愉しむ時間
生活と仕事、トレーニングの間にあるワンクッションが、「コーヒーを飲む時間」です。使用しているコーヒーミルは、大会で訪れたドイツのコーヒー屋さんで購入した思い出のもの。手に加わる引き具合や音、コーヒー豆の香りが、心を落ち着かせてくれます。

02. 地元信州に身を置くこと
信州は、「私を私でいさせてくれる場所」として支えになっています。いつでも帰って来れる場所があったから、安心して世界に羽ばたくことができたと思っています。

03. 毎日30分は運動する
朝一に脈を立ち上げるということを現役時代から続けています。この時間がないと、自分を保てないような気がして。選手の頃から、朝に太陽の光をしっかり浴びることを意識していたので、現在も日々のルーティンの中に散歩をとり入れています。日常から離れることで思考を整理したり、自然の香りを感じながら自分のペースを取り戻しています。

04. 誰かと対話する時間
自分ではなく、「誰かと」という部分を大事にしています。分からないことがあった時は、一人で考え込まず、すぐに周囲の人に聞くようにしていますね。助けを求められる環境や関係性も、すごく大切だと思っています。
小平奈緒 Nao Kodaira
1986年生まれ、長野県茅野市出身。
3歳からスケートを始める。スピードスケート日本女子の短距離のエースで、女子500mの日本記録保持者。2010年バンクーバーオリンピック女子チームパシュートでは銀メダルを獲得。2018年の平昌オリンピック女子500mにおいて、オリンピック日本女子スピードスケート史上初となる金メダル、1000mでも銀メダルを獲得。国内外の大会で37連勝を記録するなど、第一線で活躍を続け、2022年の全日本距離別選手権大会500m優勝をもって現役を退く。現在は、相澤病院のブランドアンバサダー、母校である信州大学の特任教授として、各地で講演を行うなど、人や心をつなぐ様々な活動を行っている。
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編集後記
今回は東京から車を走らせ、小平さんの故郷長野県茅野市へインタビューに伺いました。アスリート時代の経験から今に活きる精神性や、様々な人との出会いから育まれた柔軟な思考、そして現在の生活の中で大切にされていることを、様々な角度からお伺いすることができました。冬の柔らかな陽射しが差し込む空間でコーヒーを淹れる様子は、現在の小平さんがご自身と向き合う時間を大切にされていることを感じたと同時に、一人の女性としての魅力が垣間見えた瞬間でもありました。取材後半で訪れた国際スケートセンター「Nao ice Oval」では、リラックスした表情が一変し、真剣な眼差しで爽快に滑る小平さんの逞しく美しい姿に、一同心を奪われました。日々の美しい事象に意識を向け、細やかなことにも喜びを感じながら真っ直ぐに生きる小平さんからは、人生において大切なことを多く学ばせていただきました。人との繋がりを大切に日々を重ねる小平さんのココロとカラダへの向き合い方はもちろん、写真から滲み出る温かいお人柄も、ぜひ記事の中で感じていただければ幸いです。
Publication date: 2024.3.29
Photographer: Tetsuo Kashiwada
Interviewer & Writer: Yukari Fujii